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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)2227号 判決 1972年1月27日

控訴人

青山新吉

青山建設有限会社

右両名訴訟代理人

松尾敏夫

被控訴人

東京冷機工業株式会社

平野義郎

右両名訴訟代理人

蒲範雄

主文

原判決主文第一項を取消す。

控訴人青山新吉の請求中控訴人青山建設有限会社の請求が認められないことを条件とした部分の訴を東京地方裁判所に差戻す。

控訴人青山新吉のその余の控訴、控訴人青山建設有限会社の控訴をいずれも棄却する。

前項にかかる控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「(1)原判決を取消す。(2)被控訴人らは控訴人青山新吉に対し各自金九五万円を支払うべし。(3)被控訴人東京冷機工業株式会社は控訴人青山建設有限会社に対し金三〇万円を支払うべし。(4)仮りに(3)の請求が認められないときは、被控訴人らは控人訴青山新吉に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四三年六月二六日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。(5)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、被控訴人ら代理人は各控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、控訴人ら代理人において「仮りに控訴会社の本件冷暖房取付けの工事請負契約の履行に代る損害賠償の請求が理由がなく、かつ被控訴会社による右契約の解除が有効と認められる場合には、予備的に被控訴会社に対して不当利得として金三〇万円の支払を求める。すなわち本件契約成立とともに控訴会社が被控訴会社に対して支払つた金三〇万円については本件冷暖房機引取の後はそのままこれを同会社にとどめておくことは法律上の原因を欠くものであるから、被控訴会社は右金三〇万円を不当に利得しているものというべきである、被控訴会社主張の自働債権の存在を争う」と述べ、被控訴人ら代理人において控訴会社の右主張に対し、「被控訴会社は控訴会社に対し本件冷暖房機二基の売買代金一五五万円より右冷暖房機を撤去し他に売却した売却額の合計金一〇一万五、〇〇〇円を差引いた額金五三万五、〇〇〇円につき債務不履行による損害金債権を有するものであるから、これを自働債権とし、控訴会社より右売買代金の内金として被控訴会社が受領した金三〇万円の返還債権を受働債権として本訴において対当額につき相殺する」と述べ。

《証拠関係省略》

理由

一、控訴人青山の本件訴訟の当事者適格の有無に関する当裁判所の判断は原判決理由一において説示するところと同一であるからこれを引用する。

二、次に当裁判所は当審における弁論および証拠調の結果をしんしやくしさらに審究した結果、控訴人青山の控訴の趣旨(2)の請求および控訴会社の同(3)の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次に附加訂正するほか原判決理由三ないし五において説示するところと同一であるからこれを引用する。

《附加訂正部分省略》

三、次に控訴会社の不当利得の主張について判断する。

控訴会社が被控訴会社に対し本件契約成立とともに本件冷暖房工事の請負代金の内金として金三〇万円を支払つたことは当事者間に争がなく、その後本件契約が解除されたことは右に引用した原判決の説示するとおりであるから、控訴会社は被控訴会社に対し不当利得として右金三〇万円の返還債権を有するものというべきである。ところが<証拠>によれば、被控訴会社は本件撤去した冷暖房機二基を合計金一〇一万五、〇〇〇円で他に売却し、控訴会社の代金支払遅延がなければ被控訴会社が取得したであろう本件工事代金一五五万円から右金額を差引いた金五三万五、〇〇〇円の損害をこうむつたことが認められ、しかしてこれは控訴会社の債務不履行によつて被控訴会社がこうむつた損害であるから、被控訴会社は控訴会社に対して右金額の損害賠償債権を有するものというべく、しかして被控訴会社はこれを自働債権とし控訴会社の前記金三〇万円の返還債権を受働債権として相殺を主張しているので、右相殺の結果右返還債権は消滅したものというべく、従つて控訴会社の不当利得の主張も理由がない。

四、次に控訴人青山の本件請求中控訴の趣旨(4)の請求は控訴会社の控訴の趣旨の請求の認められないことを条件としたものであつて、それだけをとらえればいわゆる主観的予備的併合にあたるものというべきであるが、右請求の相手方当事者である被控訴人らはすでに控訴の趣旨(1)の請求の相手方たる当事者となつているものであつて、当初から本件訴訟において第一次的に相手方たる地位にあり、その点からいえば右併合は客観的併合の場合と変りはなく、同一の訴訟手続内において当初から当事者として関与しつつ、他の当事者に対する他の請求の当否について判断された後に、自己の請求が判断されべき関係にあるものであるから、純粋な主観的予備的請求とは異なりなんら相手方の防禦権を害せず訴訟の不安定をきたすおそれはないと考えられるから、このような場合における併合はこれを適法なものと認めて差支ない。

五、よつて控訴の趣旨(2)(3)の請求に関する控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、控訴の趣旨(4)の請求を不適法として却下した原判決は不当であるから、原判決主文第一項を取消し、さらに原審裁判所をして右請求の当否について審理判断させるため、同法第三八八条によりこれを原審裁判所に差戻すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第九三条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(浅沼武 岡本元夫 田畑常彦)

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